第19回 モダンExcelは引継ぎにも便利

RPAのような自動化の仕組みが、“野良犬化”することがあるので留意が必要です。

これは、モダンExcelにも起こりうる共通の課題です。

モダンExcelと“野良bot”問題

モダンExcelを端的に表現すれば、VBA(マクロはVBAの一種)に似た自動化ツールと言えます。
これまで見てきたように、Power Pivotで一度作成したDAXは使い回せますし(第17回参照)、Power Queryでフォルダー接続すればデータの自動更新ができる(第10回参照)など、モダンExcelを使うことで自動化が可能となり、かなりの作業工数を削減できるようになります。

このモダンExcelの延長線上に、流行りのRPA(Robotic Process Automation)があります。

「経営ダッシュボード」も、RPAの原始的な仕組みといえますね。

そうそう、RPAといえば、Microsoftは「Power Automate Desktop」俗称「PAD」を、2021年3月、Windowsユーザーに無償開放しましたよ。
概略は、こちら

このようにRPAに代表される便利そうな自動化の仕組みが、“野良犬化”する「野良bot」が問題視されています。

野良bot?

これはVBAマクロでありがちな、以前から指摘されていた問題でもあります。「自動化」という共通項を持つモダンExcelでも当然起こりえる話です。

野良botとは、各人が勝手に作ったプログラムやシステムが、組織内で管理されず、勝手に業務フローに組み込まれる状態を指します。

野良botは内部統制上、非常に危険!

VBAマクロよりも簡単に自動化プログラムを組めるモダンExcelを無造作に使うようになると、あれもこれもモダンExcelで自動化しよう、という動きが必ず出始めます。

例えば、「退職給付会計」の計算プロセスでモダンExcelを使った自動化が行われている場面を想定してみてください。莫大な金額の年金計算を行うのに対し、そのモダンExcelの仕組みをある一人の人物だけが作り、その人だけが計算の流れを知っている状態というのは、内部統制的に非常に問題があるのは容易に想像できると思います。

自動化されたシステムは、いったん動き出すと誰も検証しないままとなることが往々にしてあります。間違った計算の流れになっていても誰も知ろうとしない、その結果、とんでもない誤謬が発生し、実際に第三者委員会が立ち上がった事例もあります。

野良botがはびこらないようにするには、どうすればいいにゃ…。

“野良bot”退治、2つのポイント

野良botをはびこらせないようにするには、どうすればよいでしょう? そのポイントはどこにあるのでしょう?

野良botをはびこらせず、重大な不正が起こらないようにするには、「内部統制」という組織内部の自浄作用の仕組みが必要になります。

この内部統制には「発見統制」と「予防統制」の二つの側面があります。

「発見統制」は、不正な仕組みを発見・検知する仕組みを言います。実効性を伴う「発見統制」を整備・運用するには、それなりに経営資源が必要です。「Excelによる不正発見法 CAATで粉飾・横領はこう見抜く」(中央経済社)でも指摘のとおり、そもそも「異常点」という視点を持った人材育成が必要ですし、不正を検知するシステム投資も検討しなければいけないかもしれません。

結構、大変そうだにゃ…

一方、「予防統制」は特に2つの点に留意することが肝要です。

①本格稼働前の「承認」行為
②「コメント」機能の活用

そもそも、野良botがはびこる大きな理由は、IT担当者と業務担当者の隔絶にあると思います。

システムエンジニアのようなIT上級者ほど内部統制に対する意識が低く、「業務が自動化できれば良い」という安直な考えの持ち主が相当数います。

一方、管理部所属でITリテラシーの低い人ほど「自分はシステムのことがよくわからないから」と、IT上級者に丸投げし言いなりになる、こうした状況も相当数存在します。

要するに、自動化プロセスの内容をよく検証もせず、本格稼働にゴーサインが出されやすいことが、野良botをはびこらせ、重大な不正を引き起こす一つの要因になっているといえます。

くれぐれもご留意ください!

野良bot退治には、まず①本格稼働前の承認行為をしっかり行うことが大切です。
承認をするには、自動化プロセスの内容を検証しなければなりません。

一体、どうすればいいにゃ…。

自動化プロセスが検証できる程度にその内容が明示されていればよいわけです。

ここでポイントとなるのが、モダンExcelに備わる②コメント機能です。

Power Queryのコメント機能

Power Query、Power Pivotという「モダンExcel」には、2種類のコメント機能があります。

①シングルラインコメント(1行にコメントを入れる)
②マルチラインコメント(複数行にまたがってコメントを入れる)

まずはPower Queryのコメント機能について説明します。

Power Queryのシングルラインコメントは[適用したステップ]や[詳細エディター]で表示することが可能で、マルチラインコメントによりこれらに加え数式バー内でのコメント表示が可能となります。

コメントの作成場所は、それぞれ2か所あります。

(1)[詳細エディター](図表1)

図表1 パワークエリ[詳細エディター]によるコメント表示

(2)[適用したステップ]の各ステップを右クリックし「プロパティから」をクリック後にポップアップする[ステップのプロパティ]の[説明](図表2)にコメントを入れることが可能です。

図表2 パワークエリ[ステップのプロパティ]の[説明]のコメント表示

コメントがある場合は[適用したステップ]に○にⅰのアイコンが表示されます。

この○にⅰのアイコンにマウスカーソルをあてるとコメントがホバー表示されます(図表3)。

図表3 Power Queryの数式バー内と、[適用したステップ](枠内の○にⅰのアイコンがコメントありを示す)に、それぞれマルチラインコメント

Power Pivotのコメント機能と留意点

Power Pivotにも、シングルラインコメントとマルチラインコメントの2種類のコメント機能があり、それぞれ数式バーとメジャーの2か所にコメントを入れることができます。

(1)数式バー(図表4)

図表4 Power Pivotの数式バー内でコメント表示

(2)[メジャー]の数式内(図表5)

図表5 Power Pivot[メジャー]の数式内で、コメント表示

コメント入力時の留意点

コメントは数式の間に入れる必要がある点に留意してください。例えば、図表5のような“=sum([column1])”という数式にコメントしたいのであれば、”=”から”)”までの間にコメントする必要があります。”=”の前や、”)”の後ろ、関数や列項目などの途中には、コメントを入れることができません。

・モダンExcelのコメント機能を上手に活用し、野良botを退治!
・コメント方法には2種類あり、「//」「–」でシングルラインコメント、「/」「/」でマルチラインコメントできるよ!

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「正しいモダンExcel」の使い方の基本を学ぶには、Power Query(パワークエリ)とPower Pivot for Excel(パワーピボット)の両者を「一体理解」する必要があります。
ぜひ、拙著「モダンExcel入門」(日経BP)で学んでみて欲しいと思います。
サンプルデータで、実際に手を動かしながら、理解を深めることもできます。参考にしてください。

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